プレスリリース

 
2020年10月19日

2021/22秋冬コットン素材傾向

          
PREMIÈRE VISION PARIS及びMILANO UNICAより
 2021/22年秋冬ファッションテキスタイルを発表する国際素材見本市は、特別な会期となった。プルミエール・ヴィジョン(PV)パリは9月15~16日、初のデジタル・ショーを開催。デジタルフォーマットにはおよそ120か国から19,500名の来訪し、サプライヤー1,675社が提案する43,000点の掲載素材にスポットが当てられた。PVゼネラルマネージャーのジル・ラスボルド氏は、「業界の新たなニーズと発展に応えた」と成果を強調した。
 一方、ミラノウニカは規模を縮小してリアルな見本市を開催した。出展社数は207社、内171社がイタリア、残りがそれ以外の国々だった。来場社数は2,400社にとどまったが、イタリアを除くヨーロッパやアメリカ、日本からの来場が約400社と予想を上回ったことで、復帰への第一歩と受けとめられた。

<全般傾向>
原点に返って
 今シーズン、ファッションで注目されるのは、原点回帰への動きである。コロナ禍でリモートワークが広がり、カジュアル化が進んだことや、服を「着る」ことの意味を立ち止まって考える人々が増えていることなどがある。「ウエルビーイング」の考え方や「サステナビリティ」への機運も拡大し、素材選びでは、できるだけ自然に近い素材、自然を感じられる素材が意識されるようになっている。 そこで今、関心を集めているのが自然素材のコットンである。健康やウエルネスへの追い風もコットンを後押ししている。 原点に返って足元を見つめ直す流れにのって、コットンは2021/22秋冬もトレンドの一角を担う重要な素材と位置づけられている。

デジタル化と本物志向
 デジタル化の進展は、逆にリアルな本物へのリスペクトを生んでいる。
 今期、敢えてリアルな展示会を開催したMU会長アレッサンドロ・バルベリス・カノニコ氏は「テキスタイルや服飾資材分野にとって、その粋を集めた製品はフィジカルに展示されてこそ命を吹き込まれる。基本はフィジカルだ」という。
 リアルにとってデジタルな未来への誘惑は強い。しかし注意を払うべきは私たちにお馴染みの確かで信頼できる価値である。素材ならコットンのようなタイムレスなクオリティである。
 とはいえデジタルに誘われても過去は見ないのが、新しいシーズン。特性をさらに究めて強化したり、アイコニックな素材にひねりを加えて、視覚や触覚に戸惑いを与えたり。想像力を働かせることが求められている。
 PVファッション・ディレクターのパスカリーヌ・ウィルヘルム氏は「デジタルとリアルが対立していた時代は終わった。両者は巧みにバランスをとり、それぞれが他のものを引き立て合う。21-22年秋冬は、デジタルとリアルの“新しいバランス”を考えるシーズン」と語っている。

自然とテクノロジー 
 新型コロナウイルスは自然からの逆襲ともいわれ、手つかずの自然の世界に目が向けられている。今季は時間の経過がつくり出す自然の美を愛でるシーズン。ファブリックも自然やその成り立ち、地球やその持続的な進化にインスパイアされた、自然素材ゆえの不完全、不揃いや不均質を表現する外見や表面感を持つものが多くなっている。 ここで不可欠なのがデジタルテクノロジー。手仕事の技術と連携し、織り編み、刺繍のテクスチャーに新しい視点を開く。
 MUトレンドエリアで展開された「モンスターとパルファム(香水)」も興味深い。モンスターは、布地やアクセサリー、ネット、コルク、フック、ゴム、ナイロンなどの様々な素材をリサイクルして生まれた幻想的な生き物で、鎧を身に着けた人間のような外観をしている。キャラクターは皮肉屋で情熱的、繊細、何よりもエコロジカル。しかも感情や伝統、知恵、環境への愛が醸す特別な香水の香りを放つという。メイド・イン・イタリーのクラフトマンシップの誇りと、楽しい遊び心にあふれたテーマである。

心をケアするプロテクション  
 安心、安全は今シーズンのキーワードである。ウイルスから身を守る逃避先として、また一種の解毒剤として、心を癒しケアしてくれる思いやりを感じさせる素材が求められている。追求されるのは、アグレッシブではないプロテクションの本質的な概念の提案である。鍵となるのは身体をすっぽりとやわらかく包み込む官能性と繊細な感性、それに加えて優れた機能性とパフォーマンス性を併せ持っていること。さらに環境への責任も条件である。
 ここではそんな心地よいふくらみを持つハイテクコットンが活躍する。

両面性を持つ豊かなファンタジー  
 季節の憂鬱を晴らすように、装飾性豊かな今シーズン、ファンタジーは両面、二つの顔で表現される。リッチなカラーやボリューム感で突き抜けたような装飾効果を演出する方向と、節度のある控え目な装飾路線をいくもの。
 ジャカードや豪華なベルベット、メタリックな輝きから、抑えた光沢のしなやかな質感、曖昧な輪郭の凝ったモチーフなど、クリエイティブな提案が2021/22秋冬シーズンを盛り上げる。

キー・カラーは赤 
 全体にエネルギッシュで一見ランダムなカラー構成になっている。
 キー・カラーは赤で、フェアリーレッドと呼ばれる優雅な赤、アクティブな赤、錆びた赤の3つの赤が絡み、様々な表情を見せるカラーバリエーションで展開される。従来の枠組を超えて新たに動き出すという気持のこもった赤が、今シーズンのクリエイションをあらゆる分野で後押しする。
 色調は豊かで、繊細な自然の色や暖かみのあるアーストーン、陰影のあるカラー、グラデーション、光の使い方によって色の効果を高めるパティーナ(経年変化を感じさせる色)など、それらに加えてパレットを華やかに彩るカラー、赤をはじめとする非常に力強い色も提案されている。 カラーレンジで着目されるのは次の3つ。
●ソフト・ニュートラル  時間の経過とともに移り変わる自然の色を表現するナチュラルカラー。トーン・オン・トーンと微妙なニュアンスのセミプレーンで、イレギュラーな表面感を伝える。
●ハイ-インパクト・カラー 強力な視認性のある、美的感覚の強いカラー。赤やエネルギッシュな明るいブライトカラーで、リッチなカラーブロックやシンプルなグラフィックに、大胆なコントラストを効かせる。
●微妙なニュアンスのコントラスト エレガントで心地よい雰囲気をもたらす、微妙なニュアンスのコントラスト。自然に触発されたリラックスした暖かくて居心地のよいカラーで、穏やかな光りと影を演出する。

<コットン素材のポイント>
◇外見と異なる感触や機能  
一見、硬そうに見えて実は柔らかかったり、裏面がソフトに起毛されていたり、また見た目ではわからない体温調節機能などを備えていたり、外見と中身が異なっている素材が多くなっている。

ラシックなスーツ地にコットン
クラシックな典型的スーツ地に、精密な織り組織のコットン素材が用いられて、リラックスしたスタイルを演出するなど、コットンが分野を横断して活躍している。

◇ひねったクラシック 
へリンボンや千鳥格子、グレンチェックなど、クラシックなビジュアルにはひねりが加えられる。たとえばジャカードやプリントの表現で、またピッチやサイズを変える、異素材と組み合わせるなど、変化に富んだものが見られる。

◇フェードアウト・チェック
かすれたり、ぼかされたり、途切れたり、時の経過とともにフェードアウトするチェック。カスリ糸も驚きの効果をつくる。ぼんやりとした感じのシャドーチェックやソフトなオプティカル・チェック。きちんとしたスーツ地も毛羽立った細い線で描かれた柄がところどころ消えているなど、不明瞭な外見を見せる。 

◇鉱物や浸食された表面感  
鉱物のごつごつとした風合いを反映した、風雨にさらされたようなランダムな外観。摩耗したような構築的なジャカードや、風化や分解を連想させる不規則なダメージ、不均一なフロックプリントも興味の対象。

◇エイジング・ファンタジー
装飾デザインにみられるエレガントなエイジングのファンタジー。表面をぼかしたブロケード、ベルベットに金属糸を走らせた刺繍。粘着性ゴムのような効果のプリント。不規則に削り取ってできたひび割れた表面感。皮革に見られるような傷跡やシワの効果も。

◇丸みのあるしなやかさ
コットンもシルキーなドレープ性が重要。完璧に滑らかで、丸みのあるしなやかなクオリティへ、カジュアルはシックな世界へ移行している。緻密でコンパクトなパンツ地やジャケット地、ボリュームを増した流動感のあるストレッチコットンなど。

◇柔らかい起毛・立毛  
柔らかく毛羽だった温かな起毛や身体を包み込むようなボリュームのある素材が台頭している。起毛加工の先染めチェックや都会風のテーラリングにふさわしいコーデュロイ、段ボールニットや裏パイル、ベロア。

◇ダブルフェイス
コントラスト効果を巧みに引き出したダブルフェイス。表裏の見た目だけではなく、ベロアとシルキーの組み合わせなどタッチの異なっているものも多く、色使いやモチーフ、テクスチャーのミックスを楽しむ。

◇キルティング  
空気をはらんだキルティングの存在感が増している。エレガントなサテンタッチのより軽い質感を中心に、一新されたカラーやモチーフで。

◇ファンシーなカットヤーン  
豊かな表情と高級感が特徴のカットヤーンのジャカード(フィルクーペ)は今シーズンの一押し素材。花柄のジャカード、毛足の乱れたツィード調のもの、フリンジのように長いカットヤーンも。

◇赤銅色のメタリック  
ジャカードや刺繍、レースの表面を飾るメタリックヤーンは、赤銅色のコッパー(銅)が目新しい。コッパーは抗菌作用があることで知られる金属で、生地に優しい温かさを与え、煌めかせる。

◇パターン  
花や植物柄はシンプルに描かれたものが多く、フォークロアの影響も見られる。タペストリー風のフラワーモチーフで立体感を感じさせるもの。また凝った意匠のビザンチン風渦巻きやアラベスク模様も。 さらに鉱石のテーマも。ゲルのような小石の破片や結晶化、ひび割れた外観の粒子モチーフ。
最後にグラデーションやタイダイのアップデートされたデザインへの関心も。

 (取材/文:一般財団法人日本綿業振興会 ファッション・ディレクター 柳原 美紗子)


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