ファッション情報バックナンバー

◆コットン・ファッション情報◆

2021年春夏コットン素材傾向
PREMIÈRE VISION PLURIEL 及び MILANO UNICA より

 パリ:ニコル・トットローより
 
<カラー>

BLOSSOM
DESERT
ROOTS


パリ:ニコル・トットローより
<ファブリック>

 VINTAGE COTTAGE


AFRICAN QUEEN 

MILITARY CAMP 

CHANEL SPIRIT
 

CRAZY GIPSY 

 ミラノ・ウニカ(MU)が2月4日~6日に、プルミエール・ヴィジョン(PV)パリが2月11~13日に開催された。来場者の減少は明らかで、PVパリでは来場者数が平常時の約2割ダウンの44,414名と例外的な会期となった。出展社数も6つの見本市全体で世界48か国から1,755社となり、昨年同期に比べわずかに減少した。これには出展申し込みをしていた中国企業の見合わせの影響があったとみられている。一方来場者を企業数でカウントするMUでは、前年同期比2%の微減にとどまったという。出展社数はイタリアを中心とする欧州企業と特別プロジェクトの日本と韓国を含む477社で微増だった。

エコへの追い風を受け広がりを見せるコットン
 今や、一大トレンドとなったサステナビリティ。最優先事項は“環境への責任”とあって、テキスタイルでは原料や生産工程、トレーサビリティの重要性が叫ばれている。中でも原料では自然素材が注目され、コットンや麻などの自然に還る天然繊維が浮上している。合繊も生分解性のあるバイオマテリアルや、廃棄物を活用したリサイクル素材など、サーキュラーエコノミーを謳うものがますます増加。綿100%ナチュラルストレッチを始め、再生しやすい単一原料使いへの関心の高まりも見られる。  
 染色仕上げ加工も、エコで差別化する傾向が強まっている。化学薬品を極力抑えた昔ながらの手法が支持され、植物から抽出した染料から食品残渣を利用したものまで登場。コーティング材やフィルム材などもバイオへシフト。さらにスポーツ&テック分野では、コットン風とかリネン風など天然素材のように見える質感の高機能素材も人気。

これまでの緊張を解きほぐしリフレッシュするシーズン
 2021年春夏は夏らしいフレッシュな季節の到来が予想される。ファッションテキスタイルは、明るい爽やかなイメージに彩られそうである。これを象徴するのがPVパリのメインヴィジュアルだ。白い雲が浮かぶ青空の下、太陽光が降り注ぐデッキの上で、若い女性が顔の前に金魚鉢を構えて、凸レンズを通した大きな片目で見つめている姿を映している。PVトレンド委員のエルザ・メイさんによると、この金魚鉢は透明なポラロイドカメラのメタファーで、シーズンのムードを投影しているという。
 空の青や透明な水が“環境への責任”を語りかけ、反射する光の中で活き活きと動く金魚や明るいイエローのTシャツが躍動する若いエネルギーの響きを感じさせる。この画像から読み取れるのはエコの新バージョン。エコを広く捉えてもっと楽しく、創造的に取り組もうというアプローチである。  かねてよりサステナビリティを訴求しているMUも同様に、持続可能な創造性を掲げている。「ファッションのクリエイティビティはサステナビリティから生まれる」をコンセプトに、トレンドエリアではサステナブルな素材とトレンドに合うクリエイティブな素材を統合、Z世代に向けた「カルチャー・ミックス」を打ち出していた。
 MUトレンドディレクターのステファノ・ファッダ氏は、「Z世代は生まれたときからインターネットを使い、常につながり合っている。しかも環境問題にもっとも敏感で、素材の良さを見分けることができる世代」と指摘。「持続可能な未来に向けて、今シーズンはこのZ世代をターゲットに、テクノロジーと世界の様々な文化を結び合わせたトレンドテーマを考えた」という。取り上げられたのはメキシコシティ、ロサンゼルス、パプアニューギニアで、いずれも光りあふれる豊かな自然に恵まれた地域が舞台になっている。ユーモアとウィットにとんだ軽やかなエスプリで、もっと自由に解放的な夏を楽しんでという精神性が感じ取れるテーマだ。2021年春夏はPVパリもMUも、これまでの緊張を解きほぐし、リフレッシュするシーズンになりそうである。

自然にインスパイアされた色目のハーモニー
 サステナビリティは基本の基。とはいえカラーは「グリザイユ(灰色の濃淡・明暗)」ではない。“自然”の色合いは、実は明るい光に満ちたカラフルな色調で、決して単調ではない。微妙に色が混ざり合っている。発表されたカラーは、このような“自然”にインスパイアされた色目が主調、しかも一つひとつの色よりも全体のハーモニーが重要視されている。  
 PVパリでとくに際立っていたカラーといえばペールブルー。淡いニュアンスのあるブルーで、おぼろに霞んだ春の空をイメージさせる。今シーズンは会場内のインテリアからネームホルダーのリボンまで、このペールブルーが至る所に使われて、落ち着いた雰囲気がもたらされていた。
 カラー・テーマは「地球は空 (The earth is the sky!)」。カラー・チャートでは23色のカラーが乱れたようにばらまかれている。しかしながら総合すると暖色と寒色双方のバランスのとれた色調になっている。その最下部に上記のペールブルーがやや大きめに配されていて、主役であることを控えめに感じさせている。
 打ち出されたハーモニーは、次の5つ、ブルー&モノクロ/“もったいない”を実践するようなペール/あふれる光り/花や植物への自然賛歌/ダークでエレガントなワイルド・トリオ。いずれも概しておとなしめの色をよりダイナミックに斬新に見せる演出で提案されている。
 MUも、全般に“自然”に回帰したようなカラー、たとえばフレッシュな淡い色調やナチュラルなブラウン系が多くなっている。こうした中で一つ、注目されるのが色鮮やかな蛍光色で、環境負荷の低い素材にまで幅広く展開されている。


【コットン素材のポイント】

ピュアコットンのニューコンパクト
 コットン100%の目のつんだ羽根のように軽い薄地が求められる傾向。シャツやパンツ、軽いコートなど汎用性の高い素材だ。ナチュラルストレッチを始め、自然の光沢感、極上の緻密なクオリティを伴うミニマリズムは今シーズンのトレンド。アクティブスポーツ素材にも綿のマットな表面感が求められている。

リズミカルな軽いシャツ地
 コットンのリズミカルなメンズシャツ地が、女性向けにも引き合いが多い。軽い品質で間隔の広い、規則的なリズムのあるきちんとした色合いの控えめな感覚のストライプ、とくにバンカーやスティック、テニスのトリオが人気。先染めに限らずプリントのものも多く、小柄の幾何学柄や花柄などのシンプルなグラフィックが選ばれている。

スクエアな織り組織
 フラットな組織が増えている中、目立つのが四角い構造の織り組織のピケやハニカム、バスケット織。とくにスーツ地に好評なのが、打ち込みがよくてすっきりとシックに見える、決してツルンとはしていない表面感のもの。籐張りやカゴ編みの意匠を思わせる変化をつけたバスケットワークも見られる。軽量で高強度のリップストップもスクエアな織り組織をより強調する方向へ。

クリスピーな透明感
 引き続き重要なのが透明感のある素材。コットンボイルやオーガンジー、薄い透け感のあるニットなどコシのあるシースルー素材は、薄くてもパフォーマンス性をもたせた、クリスピーなタッチへ変化。その非物質的な薄さや透明感をしっかりしたハリ感と共存させたものが多くなっている。また透けるダブルの3D中空構造も興味の対象。細い糸などを超絶技巧で封じ込めた透明素材などに関心が寄せられている。

植物繊維の表情豊かなテクスチャー
 植物繊維ならではのナチュラルな味わいのテクスチャーが人気。一見ラスティックで粗削りながらも、実は奥深いデザインの美を追求した、洗練された表情豊かな素材。関心が高いのが綿の擬麻加工やスラブネップなどの不規則な意匠糸使い、リネン混のものが増えている。またシルクのシャンタン風のものやサマーツィード調への関心も。細かなざらつき感があって軋むようなタッチが好まれている。

波立ち震える表面感
 さざなみが立ち、小さなうねりが押し寄せる、そんな表面感の素材が多くなっている。変わりシアサッカーや洗い加工を施されてシックなヴィンテージ感を見せるローン、塩縮やリップル、超強撚の軽やかなクレープのシボや細かいシワ、クレポンの縦流れの起伏、ジャカードなど、表面に活気を与える様々な演出に注目。

とらえどころのない輝き 
 今シーズン、光沢でとくに目を惹かれるのが、とらえどころがない輝き。動くにつれてきらめいたり、波打ったり、カラフルな光線が素材の表面で揺らいだり。マットと光沢を交互に繰り返すジャカードやエンボス、部分的な光沢、モワレも復活。ラメや3Dシークインの弾けるような光りから、アニマルスキンの陰影をつけたメタリック加工、虹色の光沢、シロップのようなトロリとしたコーティングまで様々。

締りのある丸み
 固さとしなやかさ、バネのような弾みとふくらみという、これまでにない組み合わせでつくられる丸みのある質感が台頭している。甲羅のようなハリがあっても感触はソフトなので、体を包み込み保護してくれる服にぴったり。上品な光沢のコンパクトなサテンやマットなクレープ、ダブルクロスなどふんわりとしたボリュームのあるクオリティ、またボンディングも焦点。

環境に配慮するエレガンス 
 “環境への責任”をポジティブで創造的な行動として推奨する動きが広がっている。現代の高級素材としてのアイデンティティーは、環境保護の要件にしっかりと応えると同時に、究極の洗練を追求する素材。コットンもさらなる環境負荷ゼロを目指して、持続可能な新しいエレガンスへと進化している。とくにデニムでは本藍染めなどサステナブルなイノベーションを訴求するものが好評。トレーサビリティも重要な要素になっている。

シンプルなパターン
 プリントやジャカード、レースなどのパターンは、シンプルなものが求められている。花のモチーフは様式化されたり、抽象化されたり。幾何学柄は間隔を開け規則正しく並ぶなど、単純化されたグラフィックが多くなっている。柄で最も人気のあるモチーフが、エキゾチックな葉模様。絵画風や水彩タッチなどで見られる。視覚的に簡略化されて色数は少なめ。中規模なサイズのものが中心。花の模様は引き続き豊富で、大きく2つの方向。一つは大柄で柄同士の間隔の広いもの、もう一つは小花で花がひしめき合い密集しているもの。
 何もない空間が作り出す意匠も目に付く。モチーフとモチーフの間隔が空いたり、透かし模様のように描かれていたり。花模様は輪郭だけで表現され、アイレット刺繍の穴は大きくなり、ジャカードのフィルクーペも間隔を置いて並んでいる。レースも、空間を取り囲むようにして意匠を交錯させている。タイダイ風やバティック調、カスリ模様、ほぐし風。メタリックなラメをプラスした、リッチなエスニック・ファンタジーも印象的。