プレスリリース

 
2023年9月15日

2024/25年秋冬コットン素材傾向

          
PREMIÈRE VISION PARIS及びMILANO UNICAより
 2024/25年秋冬向けパリとミラノの国際服地見本市がこの7月上旬、相次いで開催された。プルミエール・ヴィジョン(略してPV)パリは7月4日~6日、パリ・ノール・ヴィルパント見本市会場にて開催され、出展企業は45ヵ国1,315 社 (内、軸となるPVファブリックには631社)で、2022 年 7 月展比 10%増。来場者も95ヵ国25,117 名 (内、国外から17,317 名) で、前年対比 7%増。この翌週の7月11日~13日、ミラノフィエラ・ロー見本市会場で開催されたミラノウニカ(略してMU)も出展企業562社、来場者は企業数で4,701社と発表され、前年同期を大幅に上回った。両見本市とも国際的イベントへの興味や今後の需要の増加を明確に反映する会期となった。


太陽光に育まれたコットン
 2024/25年秋冬は、太陽光など再生可能エネルギーによる環境配慮のソリューションが広がるシーズン。重要なキーワードとして“太陽”がクローズアップされた。  
 自然・天然繊維に目が向けられ、中でもスポットが当てられたのは太陽光の下、育まれた植物繊維、コットン。それも土壌を弱めたり、生物多様性を減少させたりする集約的な栽培モデルからは距離をおいたサステナブルなコットンである。  
 多くの素材でコットンのようなサステナブルへの解決策が開発されているのも今季の特徴で、テキスタイル廃棄物や農食産業の廃棄物から調達した原材料を始め、リサイクルや生分解を容易にする組成の素材に関心が集まっている。  
 こうした中、注目度が高まっているのがトレーサビリティである。今期は秋冬というシーズン性もあって、トレーサブルで再生可能なリソースからつくられる保温性の高い素材、コットンでは暖かいウインターコットンが復活している。

クリエイティブ サステナビリティ
 サステナビリティへのアプローチは厳格でなければならないが、必ずしも視覚的な厳しさを意味するものではない。コットンをはじめとする環境への影響を軽減したテキスタイルは、魅力的なモチーフや刺繍、ジャカード織、レース、色彩を取り入れたファンタジー溢れるデザインを擁している。サステナブル素材はトレンドテキスタイルでもある。
 今回MUではこの考え方を全面的に取り入れ、トレンドエリアを「クリエイティブ サステナビリティ」として展開した。このエリアへの出展はサステナビリティへの取り組みが条件となり、展示サンプルにはサステナブルであることの領域、例えば気候対策や化学物質の安全性、生物多様性の保護などを示すラベルが付けられた。
 トレンドディレクターのステファノ・ファッダ氏は、「これまでサステナブルファブリックはクラシックで少しクリエイティブ性に欠けるとされてきた。しかし今はもう、サステナブルであることがクリエイティブだ」と語っている。 
 24/25年秋冬は、究極のファンタジーと環境への配慮が融合し、最小限の環境への影響と最大限のビジュアルアピールを兼ね備えたファッションを実現するシーズンとなっている。

シーズンテーマ「ソーラー ヴィジョン」
 PVパリは今期、シーズンを代表するテーマとして「ソーラー ヴィジョン (太陽の指針)」を打ち出した。再生可能な太陽エネルギーがサステナビリティを約束し、ファッション業界の再生を促す願いが込められている。トレンドフォーラムでは巨大なソーラーパネルのようなオブジェが木の幹に取り付けられて、存在感を放っていた。宇宙と交信しているかのようにも見える、その未来的なディスプレーが圧巻だった。

<カラー ~ “太陽”からのメッセージ~>  今シーズンのカラーは「ソーラー ヴィジョン」が主要なインスピレーションソースとなっている。 “太陽”は古代文明や神話で神聖視され特別な存在とされてきたが、現代の資源不足を考えると、普遍的で再生可能なエネルギーが、その新たな象徴としての意味を持つようになっている。
  “太陽”からのメッセージは、カラーレンジの5つのアイコニックな色調に表れている。

・イエロークレイ ― 陽光に照らされた、黄色い粘土の黄土色。
・トゥルーオレンジ ― 純粋にエネルギーを表す真のオレンジ。血のように魅惑的で、太陽のような燃える色合い。
・シンプルグレイ ― ニュートラルで、鉱物的かつ実用的。最終的にリサイクルされる色合い。
・ダークパープル ― 洗練された深みのある、新しい定番色。
・オパールグリーン ― クロロフィル(葉緑素)のクールなグリーン。バイオロジーとテクノロジーのハイブリッドを想起させる。  

 中でも注目色となっているのがイエロークレイとトゥルーオレンジである。24/25秋冬を暖かく照らし、フィルターを通して透明に拡散されたり、過度な露光でパターンを強調したりする、印象的な色になっている。

<ファブリック~ “フューチャー オブ クラシック”~>
 ファブリックは自然のエネルギーにインスパイアされたクリエイティブな季節を迎えている。太陽光が素材のテクスチャーを照らし、新たな光沢とエレガンスの表現を生み出す一方、自然の循環が重視され、植物の力とサイエンスが結びつき、耐用期間の長い製品が重視される。
  こうした大潮流の中で、新しいトレンドとして浮上しているのが“フューチャー オブ クラシック(クラシックの未来)”である。クラシックといっても過去を振り返るのではなく、未来に向けて見つめ直そうという流れで、シックなスーツ生地や打ち込みのよい緻密なコットンなど、多目的に使える高性能な生地に焦点が当てられている。“エレガンスへの回帰”という言葉も頻繁に聞かれるようになった。
 とくにコットンは使いやすくて革新的・実験的な使い方ができて、しかも長く愛用できる自然素材。また特定の場面に囚われることなく、どんなファッションにも適していて、私たちの日常生活に自然に溶け込む力を持ち続けている。まさに永遠のクラシックである。
 24/25秋冬はそうしたコットンの新たな次元へ、次世代のデザインスタンダードを目指すシーズンとなりそうである。

【コットン素材のポイント】
 「ソーラーヴィジョン」を背景に、儚さと力強さが融合するファブリックが集結する今シーズン。コットン素材に見る新しいポイントを挙げて傾向を探っていこう。

暖かいオレンジ色
 微起毛の繊細なレースからビエラ調、ピーチスキン、コーデュロイやベルベット、シャギー、毛足の長いファーパイルまで、ウインターコットンがカムバック。カラーは冬のコレクションを暖かく包み込むオレンジ色が注目される。

プレシャスな輝き
 
ラメを織り込んだジャカードや、金色にスプレーされたデニム、宝石が光っているようなツイード、シルキーなブロケードなど、輝きは時に控えめに、時に大胆に、明るい光や陽光を受けて、プレシャスなムードを醸し出す。金属的な輝きや暗めの金箔の上を移り変わる不可思議な光への関心も。

クチュール ブラック
 エレガントな要素が際立つ季節。ブラックは控えめながらも、装飾に使われると華やかになる色であり、影から抜け出して主役となる。華麗なベルベット、フリンジや房飾り、スパンコール、ビーズ、滑らかなサテンの輝きが、ブラックに神秘的で劇的なアクセントを与え、はかない瞬間の光を魅せる。

テクノ クチュール
 
洗練されたテーラードなエレガンスへの関心が高まり、流動感のあるソフトなスーツ地にテクニカルな性能を加えた生地が上昇傾向。また強靭で密度のあるニットも伝統的なワードローブに組み込まれ、快適性を向上させている。巧みな織編み組織による幾何学的な柄表現も人気。

ダブルフェイス
 重ねの効果で保温性が高く、質感豊かなダブルフェイスは冬物衣料に最適。織物もニットも、快適さと保持力、強度と優雅さ、ファンタジーと抑制が組み合わさり、多様な特性を持つ生地が見られ、高品質なクオリティを約束している。

有機的な構造
 生地の質感や組成が虫眼鏡で観察したような印象を与える組織が目につく。ドライなタッチのラフな感覚で、静脈状に広がる模様やハチの巣状の凹凸、細胞を思わせる構造、地衣類のような要素が表現されている。単なる素朴ではない、より複雑で洗練された表現に着目したい。

自然と調和する白
 植物の生命への敬意を込めて、木の年輪やキノコの層板、葉の構造が、レースからニット、ジャカード、プリント、フロッキングまで、様々なアイテムのデザインを彩る。雪の白から冬の清らかな白さまで、白を基調としたグラフィカルな表現がアイディアの源泉となっている。

プリント&パターン
 目を引くのが光による描写で、フォトグラム風のプリントや、ぼやけたり、ちらついたり、徐々に変化する模様。背景に光が浸透し、暗い地を照らし、チェック模様の輪郭に揺らぎや光の輪が広がる意匠も。
 ボタニカルなモチーフでは、樹皮や葉柄を思わせる抽象的なデザインがアニマル柄や迷彩柄に代わって広がりを見せている。  
 トロンプルイユ効果を楽しむ表現も興味の対象。とくに刺繍やレース、織物の構造を模倣して、錯覚を演出したものが多くなっている。

 (取材/文:一般財団法人日本綿業振興会 ファッション・ディレクター 柳原 美紗子)


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