プレスリリース

 
2017年3月10日

2018年春夏コットン素材傾向

          
PREMIÈRE VISION PARIS及びMILANO UNICAより
 この2月初旬から中旬、2018年春夏に向けた見本市、プルミエール・ヴィジョン(PV)パリとミラノ・ウニカ(MU)が一巡した。見えてきたのは、両見本市ともに未来へ向けて成長し続けていることだ。MUは来期2か月前倒しされ、7月に開催される。プレコレクションの比重を高めるファッション市場の変化に対応するためという。PVパリは、早期化はないものの、プレビューのブロッサムPV展を開催している。顧客の要望は複雑化している。これに応えるべく見本市も揺れ動いている。
 今期出展社はPVパリが6つの見本市全体で世界47か国から1,678社、日本から63社、MUはイタリアと欧州諸国、それに日本と韓国を含む427社が出展し、安定した数字を残した。来場者数はMUが横ばいだったのに対し、PVパリは前年同期比2.3%増の56,250名と健闘した。これには昨年のテロの反動もある。しかしそれ以上にクリエイティブで厳選された提案や最新のファッション情報、各見本市間のシナジー効果などが功を奏した結果といえるだろう。

<全般傾向>
♦遊び心に満ちたシーズン
 2018年春夏は遊び心あふれるシーズンになりそうだ。フレッシュなウィットに富んだアプローチで、楽しい自由なファンタジーが展開される。
 PVパリは「ファン・ファースト(Fun First 楽しさが一番)」を掲げる。ファッションのドキドキ感やワクワク感をもう一度感じとってほしいという。今やあらゆるものがデジタル化され、人の考え方もロボット化されつつある。本来ファッションとはその裏をかいて提供されるものであり、不確かさこそ推進力。ファッションの楽しさもそこにあり、ウエブサイトの枠から出て、マーケットに変化と驚きをもたらそうと問いかける。PVモード委員長のパスカリーヌ・ウィルへルム氏は、これを踏まえて「生き生きとしたエネルギーに満ちたファッションの季節が来ている」と語っている。 
MUもコンセプトは「自由と解放を求める心の旅」。トレンドエリアを構成したのは、歴史上の人物やアーティストが明るい陽光を求めて異文化に浸る旅をするというユニークな発想の3つのテーマだった。すなわち「イビザのネフェルティティ」、「ソレントのマレーヴィチ」、「テヘランのカルロ・モッリーノ」。その意外な出会いが生み出す色や柄のクロスオーバーが楽しい。夏らしいリラックス・ムード満載のプレゼンテーションだった。
 こうした中、遊び心を誘うストーリーの主役を担ったのがコットン。イマジネーションを刺激する豊かな感性でシーズンを彩った。

♦フレッシュなクール系
 カラーは、フレッシュなクール系への変化が焦点。全体に見た目はシンプルだが、ニュアンスに富んでいる。
 今シーズン、PVパリが前面に押し出したのは、このクール系のモーヴ。ライラックの花に似た薄い灰色がかった紫色で、マゼンタよりも少し青みがかっている。この色が壁やフロア、バッジのホールダーなど随所を彩るカラーとなった。前年の春夏はピンクや官能的な赤が目に付いたが、それに比べると、ずっと上品でエレガントな雰囲気が漂う。このモーヴから派生した清々しいブルーや爽やかなグリーンも目立っている。水彩画に見られる色調だったり、フィルターをかけたような揺らぎのあるニュアンスだったり。瑞々しい冷たいカラームードへの移行を印象づける。とはいえそこにはエネルギーを感じさせる花粉や樹液もたっぷり含まれていて、総じて元気で楽しいカラーレンジになっている。
 2018春夏は、ちょっと澄ましたクール系に都会的なコクのある濃色を組み合わせ、はじけるような楽しさを演出するシーズンになりそうである。

♦トランスペアレント・ボックス
 混迷する今の時代に、求められるのはファッションのメッセージ性やクリエイティブ性。これを上手に表現していたのが、PVファブリックのトレンドエリア「ル・フォーラム」だろう。
 今シーズンこのエリアは、全体が半透明の白いベールにおおわれた。光を透過するフィルターを掛けたような巨大な“トランスペアレント・ボックス”の出現である。それはまるでファッションは、“重苦しい外界から遮断されたい”とでも言っているかのようにも思われた。  
 フィルター越しの内側には、カラフルな明るさいっぱいの空間が広がっていた。まさに現代のユートピア「エデンの園」といった設えで、シーズンカラーや代表的なファブリックサンプルがテーマごとにディスプレーされた。
 ベールの仕切りはリアルとバーチャルの境目を象徴するものでもあるのかもしれない。

♦「軽さ」と「豊かな表現力」
 ファブリックは2018年春夏に向けて、大きく二つのグループに分けられる。一つは「軽さ」と、もう一つは「豊かな表現力」。いずれも不安な気分を吹き飛ばそうとしているかのようである。
 「軽さ」はまさに今シーズンの一大トレンドで、空気をはらんだ軽やかなテキスタイルが注目される。あらゆる素材が軽くなり、軽やかさを極める。硬さも窮屈感もないが、締まりのないゆるい感じでもない。ふんわりとした空気感、中空でエアーをたっぷり含んでいたり、バネのある滑らかなフリュイド(流動感)だったり。繊細なタッチで、しかも構築的。とくに服とボディの間に空気が流れる、軽く膨らんだ形状をつくれる構築性は重要要素。スポーツウェアは軽量化されることで機能をよくし、肩は重みから解放される。
 コットンもハイパーファインまで薄くなる。パリパリとした紙のような感触も復活する。人工と天然の複合も多くなり、新しいナチュラル感が登場してくる。
 サブテーマとして“トランスペアレント・ボックス”に見る、ベールのような半透明感も台頭する。完全に透けるのではなく半透明であることがミソで、フィルターをかぶせたときの見え方の変化に着目する。この流れから、ぼかしを加えた効果も浮上する。ヴィジュアルは総じてシンプルで、さっぱりとしたクリーンな感覚が戻っている。
 「豊かな表現力」では、様々な要素の組み合わせが勢いづく。その主なインスピレーション源はエスニックやフォークロア。特に今シーズンは、アフリカとともに活気のあるアジアが日本を含めて関心を集めている。この多文化的異国趣味を現代の感性で都会的に仕上げるのが新しい方向。これにはラグジュアリーブランドの「グッチ」が参考になる。異次元の「混血」ストーリーをハイセンスにスタイリングしている。
 またストリートアートとアート&クラフトのミックスや、マスキュリンとフェミニンの交錯がさらに進展。ここではテキスタイルの表現は思うがまま、自由奔放に行なわれるといった感じ。絵画的モチーフやコラージュを始め、想定外のパターンの大柄化や、スケールの拡大、異様に太い糸使いの織り組織など、想像を超えるテキスタイルが見られたりもする。
 2018年春夏は、軽やかですっきりとした「軽さ」と、楽しいエネルギーにあふれた「豊かな表現力」がバランスよく調和する、スマートで陽気なシーズンへと突入することになるだろう。


<コットン素材のポイント>
1.  エアリー&ライトネス
 空気をはらむエアリーで軽いテキスタイルの代表はボイル、またガーゼ、レノクロス。非常に細いスラブ糸で表情をつけたデリケートな先染めのものも。ファインなニットはやや硬めの仕上げ。全体に透明というより半透明が中心で、輪郭を微妙にぼかすなど、透け感は断続的に演出される。カットジャカードやオパール加工、またグラフィックなオープンワーク、レースやメッシュ、チュールなど。モチーフや組織の隙間の開いたものが増え、アイレットの穴も広がる傾向。またこうした透け感素材はメンズにも人気。

2.  震える表面感 
 さざ波が立っているかのように見える、震える表面感が人気を集めている。たとえばシアサッカー。ストライプやプリントに動きをつけられると評価されている。また強撚クレープやクレポン、クロッケ、さらにリンクル加工、リップル、波打つプリーツなども。メンズではシャツ地やジャケット地に、見た目ではわかりにくい、細かい表情のあるものがセレクトされている。

3. ペーパータッチ
 パチパチ、パリパリと軋むような音のする、ペーパータッチが再び興味の対象になっている。乾燥したような手触りのコンパクトな高密度織物、しかも超軽量のコットン。軽さとしっかりとした質感のジョイントが、アウターに好評を得ている。人工的なマットなコーティング加工も、紙のような感触のものが好まれている。

4. 弾むフリュイド
 前シーズンに浮上したフリュイドが、春夏に拡大。バネのように弾む風合いで、すべすべと滑らかだが、コシがある。ひんやりとしてサラサラと流れるような質感。コットンにシルク混やビスコース混、キュプロ混など。しなやかな可動性は軽量デニムにも広がっている。快適性の標準装備はもうストレッチ性だけではない。

5. 押し寄せるメタリックの波
 光沢感はもうとどまるところを知らないといった風。とくに大波のように押し寄せているのがメタリックで、コパーやゴールド、それにアルミフォイルなどテクニカルな加工、車体を思わせる輝きのものも。この他エレガントなサテンの光沢から濡れたような艶のコーティング、ラメのフィルムヤーン使い、思い切ってショッキングな人工的な光りまで様々。

6. 洗練されたリネンタッチ
 麻にラスティックという表現はもう似合わない。とくにリネンタッチはクリーンで洗練されているところが人気の鍵。薄く軽く、繊細なイレギュラー感があって、しかもストレッチするタイプも浸透。今シーズンもスーツ地やメンズ市場を動かすトレンド素材になっている。コットンも擬麻加工やブレンドで、そのドライなエレガント感を実現している。 

7. 不完全の美
 不完全だからこそ美しいという美意識が再燃。糸がほつれたような表面や、揃えずにカットされた糸、ランダムな凹凸をつけたジャカードなど、不作為に見えて計算されたデザインがクローズアップされている。意匠糸使いやペーパーヤーン、フリンジ、ラメの光りや透かしによる軽やかさも加わり、奥行きある表現を生み出している。

8.  清潔感のあるイレギュラー
 清潔感のあるシャツ地も、上質の植物繊維らしい超極細スラブ糸使いで、わずかに完璧を乱すイレギュラーな持ち味のあるものが人気。シネ糸や撚糸が生み出す微細な凹凸感もエレガントな趣を与える。またカットヤーンも重用されている。柄ではやや太めのストライプや大きい格子、ハンカチーフチェックなど、若々しい爽やかなタイプが増えている。

9.  デニムやインディゴ
 今シーズンもデニムブームが続いている。とはいえ前年よりも軽量化し、しなやかさを増し、リュクスになった印象。またユーズドやブリーチ加工、凹凸の表面感、ダメージ加工が目立つのも特徴。さらにブルー、とくに日本のインディゴブルーには磁力のように人を惹きつける力があるようで、トーン・オン・トーンのジャカードやイカットなど、シャツ地やドレス地などあらゆるアイテムで好評を博している。

10.  アスレジャー・コットン
 アスレジャー向けに、清涼感や吸汗速乾など多機能をプラスしたコットン・ニットが進出中。Tシャツは信じられないほど軽量でスーパーファイン。マイクロリブやピケなどの効果が付けられる。スウェットの裏毛や裏パイルはますます軽くしなやかになり、エレガントな表情を見せる。さらにラミネート加工やボンディング、3Dメッシュも。

11.  ジャカードパターンやプリント 
 柄は全体に簡素化され、軽やかな動きをつける傾向が浮上している。
 ジャカードでは控えめな小柄から紋織り、ジオメトリックなテクスチャー、また和のイメージ、鳥や魚、猫などを具象化したモチーフも目に付く。
 プリントでは、まず動きのある幾何学模様。アフリカのグラフィックを喚起させるような意匠で、ストライプは手描き風だったり、図形が押し合いへし合いしていたり。タイダイやグラデーション調も。エスニック柄は単純化され、モダンな色使いで都会的に表現される。現代アート作品を連想させる巨大な柄も目立つ。
 次に植物柄のデザイン。特に多いのが葉の描写。バナナやヤシなど、繁茂するジャングル風、また果物のモチーフも。花はグラフィカルに描かれ、色班のように抽象化されていたりする。さらに海藻や熱帯魚など海中の風景も。 
 (取材/文:一般財団法人日本綿業振興会 ファッション・ディレクター 柳原 美紗子)


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